保護者・指導者に考えて欲しい事。

本当の協力関係を築くためのプロセス(解釈と介入)

結果を残すチームや良いチームに共通していることは、チームに内におけるそれぞれの協力関係(支援者と非支援者の良好な関係)が、「私とそれ」の関係(向き合う対象を自分の道具のようにとらえる関係性)ではなく、「私とあなた」の関係(相手が私であったかもしれないと思える関係性)ができているということを前回の記事では説明をしました。
さらに、「私とそれ」の関係から「私とあなた」の関係に移行するために必要なステップとして、(0)「準備」と(1)「観察」という段階の説明も行いました。これは支援者と非支援者の間には、大きな認識のズレがあることを前提として、支援者自身が持っている価値観や思い込みを一旦脇に置き、非支援者が置かれている状況を観察するというものでした。今回はその次のステップとして(2)「解釈」と(4)「介入」について考察してみたいと思います。
まず最初に、支援者が非支援者を「観察」することで、見えてきた価値観や考え方、持っている技術などを一度「解釈」します。つまり、非支援者が置かれている立場や状況に自分を仮置きして、シミュレートしてみるのです。そこから、自分は「どんなことを言って」いるのか、「どんな風にやっている」様に見えるのかを非支援者の目線から考えます。
例えば、勉強に向かってもすぐに集中力が切れてしまい、なかなか机に向かうことができない子ども(中学生)がいて、その子どもを学びに向かわせたいと願う保護者がいるとします。その際に、保護者は支援者、子どもは非支援者の位置付けになります。保護者はまず、保護者と子ども間に溝があることを認識するところから始まります。さらに子どもの価値観や行動を「観察」することで、「解釈」の段階に進みます。子どもの目線や価値観で、その子どもを取り巻く世界や、保護者自身を見直すことで、子どもに対してどんなアドバイスをすれば良いのか、意外な発見や道筋が見えてくるかもしれません。
この「解釈」の段階は、支援者が非支援者の価値観や思い、行動の動機を受け止める、もしくは尊重をする、といった一旦共感をする段階となります。そうした上で、支援者は非支援者に対して、協力関係を築くための「介入」を行います。「介入」は支援者が非支援者の持つ課題に対して、解決を図ろうとする行為ですが、非支援者の抱える問題や状況に応じて選択される手法が大きく異なります。例えば、支援者が問いを発し、非支援者がそれに応えることで、非支援者自身が抱えている問題に気づく場合もあります。また、非支援者の行為に対してフィードバックを行う場合もあります。
いずれにしても、「介入」という具体的なアクションは、常に成功をするわけではありません。「介入」が効果的でない場合は、再び「準備」←「観察」←「解釈」を行い再度「介入」する必要があります。「介入」は一連のプロセスのゴールであると同時に、新たな「観察」の始まりでもあります。ただ支援者が無作為に非支援者に支援を行うのではなく、「準備」から「解釈」までのプロセスを経ることで、非支援者が置かれている状況やその価値を理解した上で、それを受け止め、許容し、一旦共感することで、支援者が行う「介入」がうまくいく可能性は高まります。
次回はこうした協力関係を築くプロセスをもとにしながら、チームワークの本質について考察したいと思います。

文・田中潤
静岡聖光学院中学校・高等学校
校長補佐 経営企画室長

 


<プロフィール>
田中 潤。東京都私立広尾学園中学校高等学校では教科部長・教務統括部長を歴任し、その後当時経営難だった元戸板中学校・戸板女子高等学校の大改革に従事し、共学化に伴い改称した東京都私立三田国際学園中学校・高等学校で若くして教頭と学習進路指導部長を務めた。2021年4月より、静岡聖光学院中学校・高等学校への赴任し、高い偏差値の大学をひたすら目指す「富士山型」ではなく、生徒それぞれが明確な目的を持って、「この大学の研究室で学びたい」と思うような「八ヶ岳型」の進路指導を心がけている。

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