第一回 どうすれば「ゲーム」に勝てる?〜小野澤宏時の「オフ・ザ・ボール」
私は現在、同じ元日本代表の菊谷崇、箕内拓郎と一緒に、子どもたちにラグビーを教えています。「元日本代表選手にラグビーを教わるって、どんな高等技術を教えてもらえるんだろう?」と思われる方も多いかもしれませんが、教えるのは技そのものよりも、コミュニケーション能力、状況判断能力、考える力、そういったものです。
スポーツをする人は誰でも、大人でも子どもでも、「上手くなりたい」「試合に勝ちたい」と言います。私も同じです。チーム競技であれば、仲間と一緒にプレイして勝つのが、何よりも楽しいし、その瞬間を味わいたいから努力する、それがスポーツの魅力だと思います。では、どうすればその「ゲーム」に勝てるのか? それは、
① なぜ失点したのか? なぜ得点できなかったのか? 問題点を提起する
② 問題点を解消するための作戦を立てる
③ 作戦をメンバー間で共有し理解する
④ その作戦をプレイで表現する
の4つです。④のプレイにフォーカスされがちですが、残りの75%の質を高めたらプレイ自体も良くなると思いませんか?ラグビー以外のスポーツでも、「日本の技術力は高いけど」と耳にすることがあります。海外強豪国は、体格や技術ももちろんですが、瞬時の状況判断能力が優れているんです。
イギリスでは、TGFU(Teaching Games for Understanding)といって、遊び感覚のゲームを通して戦術、技術、戦略的な追求を行う方法論が体育の授業で確立されています。子ども達がゲームの中から学び取ることが大きいという教え方です。オーストラリアも同様。残念ながら、日本ではまだそこまで行っていないのが現実です。でも、子どもたちを楽しませながらやってみると、これが意外と子どもたちが自ら学ぶものなのです。だから、ゲームに勝つための①~③の75%は、基本的に子どもたちの話合いだけで行い、私たちは口出ししません。それは、子どもたちが自ら考え、共有することで、間違いなくプレイの質が変わるからです。
ラグビーの練習は苦しい、痛いというイメージがあるかもしれませんが、トップでやった私たちが実際にやるのは、ゲームシチュエーションの練習がほとんどで、実に楽しいものです。もちろん試合(ゲーム)に勝つための真面目な練習です。そうした楽しい練習を下の世代にも還元したい、一番楽しいことを一番長くやってきた人間が、一番の入門のところに行って指導した方が、世の中変わりそうじゃないですか。ビギナーだからこそ、エキスパートが教えなきゃいけないと信じています。
「ちゃんと練習して来いよ」は、教えているだけで学びではありません。最近、静岡県の教育委員会と関わる仕事をしていますが、これからの教育は学習に変わっていくべきだと思っています。教育は、教え、育むと教育者中心の考え方。学習は、学ぶ、習う。教育者が答えを先に出すのを我慢することで、自然と自分で何かを掴みに行くようになるはずです。それは、新しいゲームソフトの攻略に夢中になる子どもたちの真剣な目を見れば納得できます。ラグビー、スポーツに限らず、子どもたちに何かを教えたい、学んで欲しいと思ったら、遊び感覚のゲームを通して子どもたちが自ら考える環境をつくることをおススメします。
例えば、「お母さんがニコニコしながらテーブルに牛乳を持って来てくれるゲーム」。子どもがテレビを見ながら「かあさん!牛乳!」とぶっきらぼうに言う。お母さんは眉間にシワを寄せて「はあっ?」って怪訝な顔。これは完全な負け~(笑)みたいな。「なにその言い方!」と叱るのもいいけど、どうすれば笑顔で牛乳を持って来てくれるか自分で考え、表現させてみるのも楽しいでしょう。何でもいいんです。「どうすればゲームに勝てるか」を考え、表現させてみることが大事。何かが変わるかもしれませんよ。
次回は、集団での学びをテーマにした「コーチ1分ください」です。
<プロフィール>
小野澤 宏時(おのざわ ひろとき) 静岡県島田市金谷町出身。1978年生まれ。元ラグビー日本代表。静岡聖光学院中等部、高等部、中央大学を経て、トップリーグではサントリーサンゴリアス、キヤノンイーグルスに所属。日本代表キャップ数(出場回数)81は歴代2位。名ウィングとして「うなぎステップ」を武器に代表戦55トライ。現役時代から教育に興味があり教員免許を取得後、筑波大学大学院へ進学、その後日本体育大学の修士課程から博士課程に進み、教育、指導に関する研究に携わる。2018年よりBring Up Rugby Academyコーチ。2019年より、静岡初の女子7人制ラグビーチーム「アザレア・セブン」監督。他、大学講師など多方面で活躍中。
<問い合わせ>
Bring Up Rugby Academy
ブリングアップ ラグビーアカデミー静岡校
詳しくはこちらまで!:https://www.bu-as.com/shizuoka-school
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