第二回 「コーチ1分ください」 集団で考える、学ぶ〜小野澤宏時の「オフ・ザ・ボール」

 

私たちBring Up Rugby Academyが子どもたちにラグビーを教える上で大事にしている事に「集団での学び」があります。簡単に言えば「みんなで話し合うこと」です。試合(ゲーム)に勝つには、課題(敗因または勝因)を明確にし、解決策を考えチーム内で共有し、フィールド上で表現するというステップが必要です。ラグビーに限らず、野球、サッカー、バスケットボールなどチーム競技では、「どうすれば勝てるか」を選手たちがどれだけ理解しているかが、勝敗に大きく影響します。そして、その作戦を自分達で考え共有する「集団で考える」力が、プレイの選択、瞬時の状況判断の質を上げることを、私たちトッププロは知っています。それは、小学生、中学生でも全く同じなんです。

ラグビーというと、激しいタックルやスクラムを想像されると思いますが、私たちが教えているのは、考える力やコミュニケーション力です。「タックルはいつ教えてくれるんですか?」と聞かれることがありますが、そういう時は「タッチでも抜かれるのにタックルは必要ですか?」と答えます。プレイは時間軸に合わせて順序立てるものですが、ディフェンス=タックルだと思っている子が多いんです。練習で「手つなぎ鬼」(タッチされたら鬼になって手をつなぎ、最後まで残ったら勝ち)という遊びをやりますが、みんなで上手く追い込めないとタッチすらできません。だから全員で追い込む練習をします。ラインを構成して、どこにどう追い込むか考え、足が速い子、遅い子を認識しながら走る。追い込めた先に初めてタッチがあり、それが「ボールの争奪=タックル」になるだけです。そこを理解できないとプレイの質は向上しません。

「みんなで話す」ためには環境設定が重要です。まずは簡単なゲームから始め、上手くなったら「前投げ無し」など、みんなの力を借りずにはできない環境をつくり、チーム全員で話をさせます。私たちが注意するのは、「話をしていないこと」だけ。ちゃんと聞いているか心配な子がいれば、「友達は今なんて言ってた?」と声をかけ「わかんない」と言えば、「それだと、またプレイした時に分からなくなっちゃうよ」と指摘する。これを徹底して繰り返していると、最初は全く話さなかった子が徐々に自分の意見を言うようになるんです。「どうすれば勝てるか」を集団で考えることに時間を費やすことで、個人のコミュニケーション能力が向上し、状況判断やプレイの質を変えていきます。

東京であった話ですが、日本一になるようなラグビースクールにいる子は上手くいかないと、最初は「何やってんだよー」となります。そういう時だけ私たちは「何やってんだよ、に未来はないよね」と厳しく言います。「初めての子でラグビーボールに触ったこともない、でも同じチームで上手くやるにはどうすればいいか考えなきゃダメだよ」と。未来のない「なんで!」はダメです。だから「さ、話をして」と3か月続けたら、初入部の子がいると、「始めるぞ」と行った時に「コーチ、1分時間ください」と子どもたちが時間を要求するようになりました。話している内容は、ルールを説明したり、パスはここに出すとよく見えるとか、コーチよりもコーチらしくなっているんです。半年経ったら更に優しくなって、5年生なのに6年生の選抜チームに選ばれるまで成長して。子どもの変化にご両親も大変喜んでいました。

わからないと聞くようになる。コーチに時間を求めるようになる。こうした子どもたちの変化はとても重要なことです。それは、集団での問題解決ができないといわれる小学1〜2年生でも同じ。コーチ対小学生でゲームをやるのですが、近くに行くと「来ないでよ。こっちの作戦聞かないで」とコーチさせてもらえません(笑)。「早く始めましょう」「どうすればいいですか」が「ちょっと時間ください」「みんなで考えます」に。そこが変わると静岡のスポーツシーンも変わっていくと思います。

次回はやさしくなると、プレイが変わる。
「『伝える』と『伝わる』の違い」 をお送りします。

第一回 どうすれば「ゲーム」に勝てる?

第二回 「コーチ1分ください」 集団で考える、学ぶ

第三回 やさしくなると、プレイが変わる

第四回 大きな怪我をしないために

第五回 親がどこまで口を出すべきか ~スポーツと親子関係~


<プロフィール>
小野澤 宏時(おのざわ ひろとき) 静岡県島田市金谷町出身。1978年生まれ。元ラグビー日本代表。静岡聖光学院中等部、高等部、中央大学を経て、トップリーグではサントリーサンゴリアス、キヤノンイーグルスに所属。日本代表キャップ数(出場回数)81は歴代2位。名ウィングとして「うなぎステップ」を武器に代表戦55トライ。現役時代から教育に興味があり教員免許を取得後、筑波大学大学院へ進学、その後日本体育大学の修士課程から博士課程に進み、教育、指導に関する研究に携わる。2018年よりBring Up Rugby Academyコーチ。2019年より、静岡初の女子7人制ラグビーチーム「アザレア・セブン」監督。他、大学講師など多方面で活躍中。

<問い合わせ>
Bring Up Rugby Academy
ブリングアップ ラグビーアカデミー静岡校
詳しくはこちらまで!:https://www.bu-as.com/shizuoka-school

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