第五回 親がどこまで口を出すべきか ~スポーツと親子関係~
本誌読者のお子さんは、何かしらスポーツをやっていると思います。野球、サッカー、バスケ、ラグビー・・・、子どもと共通の話題があって、親子の会話があるのは素晴らしいことです。その一方で、スポーツ活動をしている子どもの一番の苦痛が「クルマの中での親子の会話」というデータがあります。「三振してもいいから思いっきり振らないと~」「もっと声出してボール呼ばなきゃ」。試合帰りのクルマの中でお子さんにダメ出しをした経験のある方も多いと思います。子ども達に勝たせてあげたい、子どもの成長を期待するから熱くなるのは当然のことです。親が熱心なチームの方が強くなる傾向もあるかもしれません。
親が子どものスポーツにどこまで干渉するか?難しい問題ですが、私には2人の息子がいて基本的には本人のやりたいという意思を尊重し自由に選択させています。上の子はサッカーをやっていて、下の子は体操や水泳をやっています。周りからは「本当にラグビーをやらせないの?」と聞かれますが本人たちが「やりたい!」と言ったら相談に乗るつもりです。大学院でコーチング学を学び、自律性支援やインターパーソナルスキル、集団での問題解決能力をいろいろなスポーツ(主にはラグビー)から学ぶアカデミーを東京で始めました。昨年の春に開校した静岡校は、東京のスクール生の上達や会話の内容を間近で見た妻が「うちの子には、いつからこのプログラムが提供されるの?」という圧力から始まりました。これは思いっきり干渉していますね(笑)。
このスクールで大切にしているのは「学習は学習者のものである」ということです。教えるのではなく「学ぶ」。「こうやって」と答え提示したら学習ではありません。指導者は学ぶための環境を作るのです。プレー環境だけでなく、話す環境も整え「今のこうだろ」でなく「なぜ今そのプレーを選択したのか」を聞き、子どもが自分の言葉で話す機会を提供します。それが根本的な理解につながるからです。親子の間でもそれは同じ。問いかけのスキルを親が学ぶことで、その関係性が変わっていきます。イエスorノーで答えられるものではなく、オープンな質問をすること。どう思っているかを聞くことで、子ども自身が言語化できるようになっていきます。
子どもが自分で表現するようになると、親は子どものスキルや成長へのステップを尊重するようになり、「なるほどね」と逆に学ぶこともあります。子どもが人として対等に扱われていること、フェアな関係が大事です。それでも言いたい(教えたい)時は私にもあります。その時は「お父さんだったら、あの場面こうするけど、それってどう思う?」と正解のない話し合いの題材とします。例えば子ども達に「声が小さい!」と言う指導者がいます。それは大人が「声が小さいとみんなに伝わりにくいから大きな声を出したほうがいい」という答えを教えてしまっているのです。もし、みんなに伝えるための声の大きさを学んで欲しい場合、敢えて小さな声で喋るというのもいいかもしれません。すると子ども達は「聞こえません」と言う。そこで「じゃあ、どうしたらいい?」と聞き子ども達から「大きな声で話したほうがいい」となり、そこから相手に伝わるような声の大きさが大事であることを学ぶのです。
正直言うと「お父さんの聞き方は理屈っぽくて嫌だ」と言われることもあります。子ども達に何を話してもいいという心理的安全を与えられていないのかもしれません。親子関係なので時には感情論があってもいいと思います。子どもと自分の性格や考え方を把握しよりよい関わり方について常に考えることが大切だと思います。子どもが自ら考え自分の言葉で話すことを引き出すアプローチを知ることが、子ども達の成長を促すのではないでしょうか。
<プロフィール>
小野澤 宏時(おのざわ ひろとき) 静岡県島田市金谷町出身。1978年生まれ。元ラグビー日本代表。静岡聖光学院中等部、高等部、中央大学を経て、トップリーグではサントリーサンゴリアス、キヤノンイーグルスに所属。日本代表キャップ数(出場回数)81は歴代2位。名ウィングとして「うなぎステップ」を武器に代表戦55トライ。現役時代から教育に興味があり教員免許を取得後、筑波大学大学院へ進学、その後日本体育大学の修士課程から博士課程に進み、教育、指導に関する研究に携わる。2018年よりBring Up Rugby Academyコーチ。2019年より、静岡初の女子7人制ラグビーチーム「アザレア・セブン」監督。他、大学講師など多方面で活躍中。
<問い合わせ>
Bring Up Rugby Academy
ブリングアップ ラグビーアカデミー静岡校
詳しくはこちらまで!:https://www.bu-as.com/shizuoka-school