第四回 大きな怪我をしないために ~限界値と調整力~
ラグビーは体と体がぶつかり合う激しいスポーツです。だからこそ、怪我に対するケアはとても大事になります。現在のラグビーでは、試合中に脳震盪の疑いがあれば、最低10分間はフィールドの外に出なければならないルールを設けています。選手の安全を第一に考えているからです。やかんの水をかけて何度でも、というのは昔の話です。コーチングもそれに準じ、怪我予防に対する技術は確実に進歩しています。レスリングのタックルの専門家から、怪我をしないための相手への近づき方、倒し方、自分の体の使い方を学び、それが安全性アップと同時にテクニックの向上にもつながっています。コツがわかっている人に聞くことで、より効率的な体の使い方がわかるようになり、それを踏まえたチェスト(胸囲)アップをするようになりました。安全性を重視したルール制限が、怪我をしない体つくりの技術を加速度的に進化させているのです。
そこで重要になるのが、自分の体をコントロールする力です。人間は、目や耳からあらゆる情報をインプットし、それを体で表現(=アウトプット)します。例えば、「右へ行って」、「2m前に行こう」という情報があって、それが脳から体に伝わり実際の動きになるわけです。だから怪我をしない動き方がわかっていても、それを表現できなければ全く意味がありません。情報処理する力、それを表現する力はトレーニングで鍛えることができます。ありとあらゆる情報から、自分が思った通りに自分の体をコントロールする力を身につけることは、怪我をするリスクを最小限に抑えるだけでなく、プレーの質の向上にもつながっていきます。
そのためには、小さい頃から色々なスポーツをやることをおススメします。色々な局面、様々な情報のインプットから、自分の体を思い通りに表現できる幅が広がり、体の調整力が向上するからです。野球なら、右で打つ人は左でも打つ、テニスをやるのもいいでしょう。日本では小さい頃から一つのスポーツを専門にやる傾向が強いので、肩や肘を痛めるなど、負荷が一か所に集中するケースがどうしても多くなります。アメリカでは複数のスポーツをやるのが普通で、アメフトのトッププロにはマルチスポーツ選手も数多くいます。ラグビー日本代表の選手の中には、サッカー、柔道、野球、バスケなど、色々なスポーツの出身者がいます。ラグビーが、怪我をしないバランスの良い体づくりのための受け皿になってもいいですね。ラグビーの魅力にはまって、将来ラグビー日本代表になるかもしれませんが(笑)。
ラグビーはグラウンド内の人数が多く、一人一人が機能しないと成立しないスポーツです。私は選手時代、自分のパフォーマンスがチームにプラスなのかどうかを一番気にしていました。そのために、ウェイトトレーニングで自分の調子を数値化し、どこまで負荷をコントロールできるかをノートに書き、常に80%以上の力でできるよう調整していました。限界を超えた所で無理をすれば大きな怪我につながり、チームのプラスにもなりません。今は科学が進歩し、人間の限界も数値化できるようになりました。服で心電図をとれる時代です。野球の球数制限のように、怪我との因果関係もデータ化されています。まずは、正しい情報を知り、正しい姿勢で、正しい筋肉の使い方をすること。そのために、色々なスポーツや動きをすることで、バランスの良い、調整力のある体を作ること。そして、自分の限界値を知り無理をしないこと。そうすれば大きな怪我をするリスクは小さくなります。将来のある子どもたちのために、指導者や親にはぜひ知っておいて欲しいことです。
次回は「親がどこまで口を出すべきか〜スポーツと親子関係〜」をお送りします。
<プロフィール>
小野澤 宏時(おのざわ ひろとき) 静岡県島田市金谷町出身。1978年生まれ。元ラグビー日本代表。静岡聖光学院中等部、高等部、中央大学を経て、トップリーグではサントリーサンゴリアス、キヤノンイーグルスに所属。日本代表キャップ数(出場回数)81は歴代2位。名ウィングとして「うなぎステップ」を武器に代表戦55トライ。現役時代から教育に興味があり教員免許を取得後、筑波大学大学院へ進学、その後日本体育大学の修士課程から博士課程に進み、教育、指導に関する研究に携わる。2018年よりBring Up Rugby Academyコーチ。2019年より、静岡初の女子7人制ラグビーチーム「アザレア・セブン」監督。他、大学講師など多方面で活躍中。
<問い合わせ>
Bring Up Rugby Academy
ブリングアップ ラグビーアカデミー静岡校
詳しくはこちらまで!:https://www.bu-as.com/shizuoka-school
[winbe]
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