Go For It ! 松本 奈菜子選手インタビュー

レースで勝っても負けても「楽しく走ること」が心の支え

東邦銀行陸上競技部

松本 奈菜子選手

1996年、静岡市清水区(旧清水市)出身。
清水七中から浜松市立高校に進学し、筑波大学を経て東邦銀行陸上競技部に所属。
専門種目は400mと800m。2014年にはアジア大会で4×400mリレー第2位、日本選手権では400m第1位を記録した。
2019年5月の世界リレー(横浜)でも快走し、女子4×400mでベスト16。

小さな頃から走ることが大好きで「もっと速く走れるようになりたい」と言う私に、父が「じゃあ、陸上クラブに入ってみる?」と。それがきっかけで、小学2年生の夏に地元の陸上クラブに入ることになりました。
クラブに入ってからも、父とはよく「よーい、ドン!」でかけっこの競争をしました。子どもだから敵うはずもないのに、力試しで何度も挑んでいましたね(笑)。
私が入った陸上クラブでは、きちんとしたメニューが用意されていて、600メートルのタイムトライアルのダッシュとか、200メートルのインターバル走とか、小学生のわりには本格的な練習をしていました。私自身も真面目に、ストイックに取り組んでいたと思います。
 最初は短距離走をメインにやっていましたが、小学生だと全国大会では種目が限られていて、特に短距離だと県でトップの子しか出場することができません。そんな事情もあり、途中で先生から「奈菜ちゃん、800メートルやってみようか」と提案されて、長距離走に挑戦することになりました。
ただ、小学生の頃は800メートルをなんとか走ることはできたのですが、中学生になると大きな大会の長距離走では学年ごとに1500、3000メートルと距離がどんどん長くなり、その結果、「長距離はあまり得意ではないな」と思うようになりました。一方で、陸上クラブで4×400メートルリレーに出場した時には、「短い距離を速く走ることはやっぱり楽しいな」と改めて感じました。
高校進学が近づくと、「これだけ長距離をやってきたから、長距離が強い学校に行こうかな?」という考えと、「やっぱり楽しさを感じられる短距離の強い学校に行きたいな」という思いの間で少し揺れましたが、中学3年の時に補欠で選ばれた全国都道府県対抗女子駅伝の静岡県チーム監督(浜松市立高校 陸上部顧問 杉井将彦さん)が、「高校生になったら800メートルはスピードの世界になるから、スピードを強化して800を頑張ってみよう」と声をかけてくれました。その言葉を受けて「この先生のもとで陸上をやりたいな」と思い、浜松市立に進学することに決めました。
 今振り返ると、苦手だった長距離に取り組んでいた時期は、決して無駄ではなかったと思います。今後の方向性を決めるきっかけにもなったし、この時期には短距離の楽しさを改めて感じることもできたからです。
やはり、私にとって「楽しい」という感覚はとても大切です。まだ小さい頃、一緒に練習している子に負けて悔しそうにしている私に、母が「勝つことが楽しいという理由で陸上をやるなら続けなくていい」と言ったことがありました。その言葉が心に強く残っていて、大人になってからその真意を尋ねたら、母は「スポーツをやっていて、ずっと勝ち続けることはない。負けたときにやめてしまおうと投げやりになってほしくなかった。だから、勝っても負けても楽しんでやってほしかった」と言っていました。
 陸上というのは競争の世界そのもので、順位もタイムもはっきり出てしまうので、勝ち負けが顕著にわかります。そんな競技だからこそ、私は今も母のその言葉を大切にしながら取り組んでいます。
高校生になってからは国際大会に出場する機会も増え、世界のレースで走ることの楽しさを味わえるようになりました。大学生の頃はなかなか結果が伴わない時期もあったけれど、やはり心の支えになったのは「楽しい」という感覚。そして、日本代表として出場させてもらうことにも有難みも感じています。
子どもの頃は世界の舞台で走れるなんてまったく想像せず、ひたすら自分の課題に取り組んで結果を出すことを楽しむ日々を送っていました。その積み重ねのおかげで今があるので、今スポーツを頑張っているみなさんも、「これ楽しいな」「もっとやってみたいな」という好奇心の一つ一つを大事にしながら、毎日の練習を頑張ってほしいと思います。

[winbe]

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